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高校に進学したばかりの頃、僕は部活を終えると祖父の店である喫茶店によく立ち寄った。アンティークな雰囲気が漂うその店には僕が幼少の頃描いた「おじいちゃん」の絵が店の一番目立つ場所に飾ってある。
その日は少し早い初雪が振っていて、カランと鈴の音がなるドアを開けると、店はいつものようにコーヒー豆の香りと人々の笑い声で溢れかえっていた。
「坊主が来たぞ」
常連客の腰が曲がった老人は僕を見るなりそう言うと、手招きをした。
「こいつ、高校生にもなってコーヒーも飲めないんでさ、そろそろ教育してやって」
祖父はそう言って僕の頭を二度優しく叩いた後、ホットミルクを運んできた。
「毎日毎日、コーヒーばかり、何でそんなにコーヒーが好きなんですか?」
僕は老人に話しかけた。
「坊主ももう少し毛が生えれば分かるだろうよ」
その声を聞き、周りにいた常連客の老人達は大声で笑った。
中には「毛くらいもう生えてんだろ」とか「初コーヒーは彼女とデートの時だろか」などという声が聞こえてくる。僕はなんだか恥ずかしくなってホットミルクを一気に飲み干した。すると祖父は「お代わりは?」と常連客に言い、空になった白いカップに香りのいいコーヒーを入れて回った。そして最後に僕の所へ来て「飲むか?」と言った。今まで勧められたことなどなかったから一瞬迷ったが、大きく首を振った。
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