夏なんてなければいいのに

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赤らめながらその作業を続けていた 「こんにちは」とマツが声をかけると 小さな小さな男の子は小枝を集めながら「こんにちは」とマツに返した 「つぶやき」を広い集めるのが仕事らしい 小さな小さな男の子が井桁に放り込んでいたつぶやきはポップコーンが 弾けるように井桁からポンポンと弾けとんだ マツが弾けとんだ一粒を拾ってみるとドングリになっていた 夏の終わりを惜しむつぶやきがドングリになっていた 小さな小さな男の子はつぶやきを拾い集めるのが仕事らしい 夏の終わりいつも仕事がふえるとつぶやいた 「夏なんてなくなればいいのに」とつぶやいていた小さな小さな男の子だが 井桁につぶやきを放り込む姿はどこか誇らしげにマツには見えた 小さな小さな男の子はマツと交わした「こんにちは」を井桁に放り込んだ しばらくすると「こんにちは」はドングリになってポンポンと弾けとんだ 小さな小さな男の子はマツに「ごきげんよう」と言い 軽く手をあげクスノキの幹の中へ姿を消した クスノキのまわりには 夏の終わりの つぶやきドングリが沢山転がっていた その中にたまに琥珀色に輝くつぶやきどんぐりもあった 「夏なんてなくなればいいのに」のつぶやきも 「つぶやきどんぐり」になって秋を向かえる仲間に肩を並べていた クスノキの幹に 「ごきげんよう」と告げて帰路についたマツだった
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