解雇通告は始まりの言葉

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でもあの日とは違って、俺の中に悲しみはない。 あるのは、希望だ。 「…うぇ…」 彼女が声を上げる 「うえええ…よかった…よかったよぉ…あああ…!!」 大きな声で涙を流す。 彼女もまたあの日とは違って悲しみの涙ではなく嬉しさの涙だった。 こういう時は… 「はい、ハンカチ。」 あの日と同じ、しわくちゃなハンカチを差し出す。 「もう……ふふ…」 彼女から笑みがあふれる。 こうして俺たちは数奇な出会いを果たし、一年という時間をかけて結婚に至った… ……… 場所は宍道湖。 湖畔ではしゃぐ彼女を見ながらジュースを空ける。 出雲大社にお参りして、念願のしじみの味噌汁を飲んで、最後の場所としてやってきた。 夕暮れに染まり、湖面は茜色に染まっている。 「俺なんかでよかったのか?」 とうっすら笑いながら問いかける。 「あなたじゃなきゃ、いや!」 笑いながら彼女は無邪気に答える。 茜色の湖面に映る彼女は、まるで蜃気楼の様に美しかった。 …… 俺たちは東京に戻った。 東京に戻る、そう伝えたら彼女は「向き合わないとダメだよね…」と言い、俺に着いてきてくれた 東京には知り合いが多くおり、生活するにあたって色々手助けをしてもらえることになった。 一年間行方をくらましていたので親の所に顔を出しに行ったときは母が倒れそうになった。 賃貸契約も現状無職なので契約に手こずったが、友人に助けてもらいどうにかなった。 彼女を保証人にし逃げた友人も見つかり、土下座をしながら全額返してきたそうだ。 だが彼女は受け取らなかった。 彼女曰く「あの子が逃げなければあなたとあえなかった」と。 照れるぜ… 俺はその後旅行の経験を活かした仕事がしたいと思い、必死に勉強して資格を取り旅行代理店を開いた。 他とは違う不思議な旅程を提供するうちの店は次第に人気となり、各地に支店を持つほどになった。 …… 夏のある日夕方6時、会議を終え帰宅を急ぐ。 その途中、列車が新宿駅に停車した。 俺は懐かしくなり、降りてみることにした。 「…ああそうだ、このベンチ…」 新宿駅中央快速線8番ホーム。ひっきりなしに列車が発車するこのホームで彼女と出会った。 夏のじめっとした熱風が肌をなぞる。 ふと、あの時の言葉がよぎる。 「夏なんて滅びれ(なくなれ)ばいいのに」 雑踏に乗って言葉は消えた。
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