解雇通告は始まりの言葉

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「「……」」 無言のまま見つめあう。 なんだろうな、なんか同じシンパシーを感じる。 しかし… 綺麗な女性だなぁ… この人はきっと成功してるんだろうなぁ… なんて僻みっぽい思いを走らせてしまう。 「……」 向こうもこちらを見つめ黙ったまんまだ。 俺は目を逸らしぽつりと 「俺、首になったんですよ(笑)」 と自虐を込めた笑いをしながら話しかける。 もうどうせ会うことはないんだ、と思い、話を続ける 「それでねぇ、彼女にもフられたんですよ」 「メールしたらすぐに「別れよう」って。そのまま携帯を屋上から放り捨てましたよ。五年も一緒にいたのに「クビ」の二文字でフラれてさ、なんかもう色々どうでもよくなっちゃって…」 誰かに聞いてほしかった。 それだけでも少し救われた様な気がした。 女性はただこちらを見つめ黙っている。 だがしっかりと目線を捉え、しっかりと聞いてくれている様だ。 だから調子に乗った。 「俺ね、万年窓際だったんですよ。それで解雇されるとも思ってなかったし、それでよかった。基本給もらって、狭いアパートで彼女と同棲して…」 「それがとっても楽しかったんだ」 口が止まらない。 「だけど」 「だけど会社からすればただの穀潰し、彼女からすれば万年平社員の薄給男。大事な場所だった二つの存在にとって俺は迷惑な存在だったんですよ。」 「いま、ようやく気付けました」 気付けば大粒の涙を流していた。 おかしいな。さっきは涙も怒りも何も湧かなかったのに。 でも、なにか解放されたような…そんな気持ちだった。 「これ…」 女性がハンカチを差し出してくる。 今はそれだけで涙が二割増しだ。 拝借し涙をふく。鼻水も垂れていたがさすがに人様のハンカチで拭うわけにもいかない。 「鼻水をふいてもらってもかまいませんよ…?」 そんなに無様だったか、いやそうか、声を抑えているとしても35の男の大泣きだもんな。 しかし冷静になって周りを見てみると道行く人がこの女性に「酔っ払いに絡まれてかわいそう」という目を向けていることに気付いた。 慌ててバックにあったビニール袋にハンカチを入れ女性に渡し「すいませんでした!」と謝り立ち去ろうとする。 「私の話は聞いてくれないんですか?」 後ろからやさしく、どことなく悲しそうな声がした。
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