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…………
20分もしただろうか。
彼女は泣き止み、スンスンと鼻を啜っている程度だった。
「ごめんなさい、みっともない姿見せちゃって…」
「いや…俺も…ごめんなさい」
何に向けてのごめんなさいなのかは自分にも分らなかったが、心の中に罪悪感があるわけではなかった。
少しの間、二人の間で沈黙が流れる。
先に口を開いたのは
「なんか…すっきりしましたね」
俺だった。
彼女も続ける
「ええ、とっても」
その顔には少し笑顔が戻ってきているようで、それはとても可愛らしかった。
ハハハ、フフフと笑いあう。
東京のど真ん中で、眠らないこの町で、俺は素晴らしい女性と出会った。
心の中は晴れ晴れしていた。
…まてよ、そういえば…
どうしよう、家帰れねえ…
元彼女と同棲状態だったので今帰るのは忍びない。
まず第一に俺のハートが持たない…
その表情を読み取ったのか女性が口を開く。
「また、暗い顔になってきてますよ?」
おっと、マズったな…
しかし彼女もこう続けた
「どうしましょう…今家に帰ったらまたあの人達がいるかも…」
…そうだったな、彼女も現状帰る家がない。
うーん…どうするかな…
ホテル行きましょう、なんていったらそれこそただのヤリモクと一緒だし…
…そうだ、今何時だろう…
時刻は21時25分を指していた。
この時間なら東京駅からアレに乗れるんじゃないか??
もし…彼女がいいと言うなら…
「ねえ…俺、貯金結構あるんですよ」
「?はあ」
「もしよかったらこのまま俺と旅に出ませんか?」
やっぱり調子乗りすぎかな?
その気になれば友人の家に出も転がり込めるだろうし…
「いや、あの、私お金が…」
「俺が出すよ。」
ただ俺は自由になりたかった。
それが、つかの間の自由だとしても
「嫌なこと、忘れに行かない?」
「…じゃあ、どこに行くんです?」
「目の前のこれが最初の一歩だよ」
目の前で口を開き、人を待つオレンジ色のラインが入ったシルバーの車両。
俺たちは閉じかけたその口へと滑り込んだ。
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