解雇通告は始まりの言葉

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それから彼女と俺は日本中を回った。 北は北海道、南は沖縄。 北海道、本州、四国、九州の四大陸を完全制覇した。 俺はあの日屋上から携帯を投げて以来、携帯を持ってないからはぐれた時はとてつもなく焦ったっけなぁ(笑) だけど、東京にだけは近づかなかった。 お互い言い出すこともなかった。 その時間は何も考えず、15年で築き上げた貯金でやりたいことをしつづけた。 人の貯金を使い遊ぶ彼女を図々しいと思うかもしれない。 だけどこれは俺がしたくてしたんだ。 もし彼女が詐欺師だとしても、俺は後悔しない。 彼女と過ごしたこの時間は嘘ではない、から。 そんな生活をして一年近くがたった。 豪遊するというわけでもなかったので貯金の減りはスローペースだったが次第に底が見えてきた。 その事を彼女に伝えると、やさしい笑顔でうなづいてくれた。 この一年で俺たちはとても変わった。 最初は全てがどうでもいい様な顔をしていた俺はすっかり生気を取り戻した。それは彼女に言われなくても自分で分かるくらいだ。 彼女はとても明るくなり、笑顔の可愛らしさに拍車がかかった。 楽しいことをして満点の笑みをこぼす、俺は何度その顔に惹かれた事か。 だけどこの一年で俺たちが関係を持つことはなかった。 どこかで距離を取っていたのかもしれない。 関係を持てば戻れなくなるかも知れない。 肉の喜びに溺れ、今の関係に戻れなくなるかもしれないと、 俺はそう思っていた。 ホテルで一緒の部屋になることも多かったが絶対に手を出さなかった。 俺の中で信念の様なものが生まれているのかも知れない。 そして今、俺たちは島根の出雲にいる。
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