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仕事に際して気持ちの切り替えが早い桔梗は、本物の大人と言える。
「それで?」
すると、恭介は、デスクにそびえている資料の山を切り崩し、厚さ十センチくらいを手にとった。
「一応、これくらいは集まりました。それでですね、彼女の魔導親和性の高さの理由も分かりましたよ」
笑顔のよく似合う研究者は、ニコリと笑った。
魔導親和性。それは、産まれもった魔術への干渉能力。
御崎瑠奈のそれは人間を大きく上回り、簡易魔導障壁程度なら壊してしまう。
「で、犬神? 陰陽師?」
冗談混じりに桔梗は言う。しかし、魔導親和性は家系にも左右されるので、あながち冗談とも言えないのだが。
「えーとですね、それらの筋は見当たりませんでしたが……」
何かが見付かったらしい。
桔梗は、恭介の言葉を静かに待った。
「先祖代々イタコの家系だったようです。現在も実家が神社のようなんですね、これが。瑠奈ちゃんは、そこの三姉妹の三女です」
読みは当たった。やはり、魔導親和性の高さは単なる偶然ではなかったようだ。
「イタコっていうと、いわゆる巫女の事でしょ? 儀式で神を下ろす器に使う」
「そうです。元々、巫女は神に干渉するために、魔導親和性が高くなければならないのですね」
あごに手を当て、無言で考え込む桔梗。
すると、何かを閃いたように、そのポーズを崩した。
「イタコね、それは使えそうだわ」
まるで、新しい玩具を与えられたように、桔梗は満足げな笑顔を浮かべた。
恭介は背中に冷たいものを感じながらも、上司に口出しはしない。桔梗の機嫌を損ねるような口出しは、自殺行為だからだ。
そんな、ご満悦の上司は、軽く手を振りながら部屋を出ていった。
残された恭介は、再び視線をコンピュータに目を向ける。
「ふむ、ガイア理論ですか……」
二ヶ月前の襲撃で分かった、敵対組織の目的。
地球を象徴学的に生きているとみなした時、それは無機生命体────ガイアであり、このガイアを操作する事で、世界における概念、法則、真理、秩序をねじ曲げる事ができる。
彼らは、その中枢たる神凪市を手中に納めるために、街への侵入を繰り返しているのだという。
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