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車のドアを叩きつけるように閉め、鈴村は舌打ちをした。運転席に蹲るパートナーを苦々しく一瞥する。窓越しに見える顔は、青ざめ、微かに震えているようにも見えた。
鈴村は持参のカメラを握りしめた。プロの物に比べたら、たいしたことのないデジタルカメラであるが、この際仕方ない。こうなってしまっては、自分が写真を撮るしかないだろう。
――なにが、怖いんです、だ。
あれで、プロのカメラマンだというのだから、お笑いだ。
――まったく、世話の焼ける。
車から少し離れた敷地の、その中に立つ荒れ果てた屋敷を見て、鈴村は苦々しく笑った。
ただの、ボロ屋だ。
こんな屋敷の、一体なにが怖いというのだろう。
鈴村は雑誌の記者を生業としている。昔は、エロ・スキャンダル系を題材としたゴシップ誌にフリーで記事を書いていたのだが、その気骨溢れる取材方法が業界内で有名になり、とある雑誌の専属記者にスカウトされたのだ。
所謂、オカルト雑誌である。
幽霊、妖怪の類は勿論の事、都市伝説の検証、殺人事件の取材など、その手のことを面白おかしく記事にするのが仕事であった。
鈴村は、幽霊の類はまやかしだと思っている。
死んだら、それまで。
幽霊だのなんだの、そんなものは生きている人間の妄想だ。
基本がそんな考えのものだから、彼はどんなところでも飛び込んで取材をするのが常であった。心霊スポット、殺人現場、有名な樹海にも足を踏み入れたし、事故アパートの泊まり込み取材を行ったこともある。
無論、何かを見たり、聞いたりしたことは、一度もない。
これは仕事だ。
面白おかしく記事を書き、読者を楽しませる、一種のショービジネスなのである。
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