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「今度のは、山の奥にある廃屋なんだそうですよ。何でも、子どもの霊が出るのだとかで」
車を運転していたカメラマンの宮脇は、そう言ってぶるりと肩を震わせたものだ。
「編集部に、匿名でかかってきたんだそうで」
「何が」
「電話が」
それが一体、どうしたっていうのだろう。電話でのタレ込みなど、今までだってあったことであるし、特に特別なことではない。
そう述べると、宮脇は心底嫌そうな顔をした。
「違うんですよ。その電話、なんだか気味が悪かったって」
「気味が悪い?」
「ええ。ぼそぼそっとした、陰気な声だったんだそうで」
鈴村は苦笑する。それはそうだ。怖い話をする時に、朗らかに喋る輩はいないだろう。
都心の雑誌社から車を出して、高速に乗ること2時間半。もう何回トンネルをくぐったことだろう。
中部地方に差しかかかっているようである。見渡す限りの山、山、山。鈴村は大きくあくびをした。
新幹線で行けば、時間は半分ですむというのに。全くケチな雑誌社である。
「鈴村さん、噂には聞いてましたけど、本当に怖がらないんですね」
「怖がってたら、仕事にならないだろ」
「そうですけど……」
そうこうしているうちに、高速を降り、車は人気のない道を走っている。
大通りを抜けて小脇にそれ、山へ山へと向かっているようであった。
典型的な田舎道だ。道の両脇には畑や田圃が広がり、平屋造りの民家がちらほらと立っている。
緑の稜線が、目に眩しかった。降るような蝉の声が、冷房のファンの音と混じり合い、鈴村の耳に届いている。
外は、さぞ暑かろう。
車外に出たときのことを想像しただけで、早くもぐったりとしてしまう鈴村である。
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