1章:パーティ

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パーティに行くのなんて、 いつぶりだろうか。 友人の久美に誘われたのは2週間前。 LINEの通話が着信したのは、 夕食後の食器洗いをしている午後20時ころだった。 典子は食器を洗う手を止め、濡れた手をエプロンの端でぬぐい、 スマホを手に取った。 久美は仕事後に一杯飲んだ後なのか、 陽気な声で典子に話しかけた。 「あ、のりこー、ごめんねーこんな時間にー」 「んん、全然だいじょうぶ。どうしたの、こんな時間に?」 典子は無意識に、小声でこたえた。 夫の健一は、健太と一緒にお風呂に入っている。 お風呂からは2人の仲良さげな声が聞こえた。 「うんー、それがねー、ちょっとお誘いなんだけどさー」 「お誘い?」 「そうそう、お誘い、んー、友達のパーティなんだけどね、 なんか今、結構売れてる俳優も来るらしいのよー」 久美の話によると、久美の友達のツテで その俳優が主催するパーティに行く約束になっていたらしい。 俳優の名前を聞くと、 確かに、最近ワイドショーでよく聞く名前だった。 確か、先クール、視聴率がとても良かったドラマに出ていた。 主人公ではなかったが、かなり大事な役柄だったと思う。 「そうなんだー、すごいねー、そんなパーティにお呼ばれしちゃうなんて」 「そんなことないわよー」 と、口では言いながらも、久美の誇らしそうな顔が浮かんだ。 「さすが。現役バリバリのキャリアウーマンは違うわねー」 「そんなことないわ。毎日、残業と飲み会の毎日よ。 一足先にリタイアしちゃった典子がうらやましいわよ」 「またまた。私なんて、毎日、子供の夫と子供の世話ばっかで 退屈すぎるわよ」 言いながら、夫に聞こえてしまったらどうしよう、と思い、 典子は手で口をおさえた。 「で、どうかな、典子、あけられないかな? 来週の金曜日の夜」 「うーん、、子供の世話もあるからな、大変なのよ専業主婦も」 「そうよねー、ごめんね、突然。でももし行けたら連絡頂戴ね」 久美は電話を切った。 久美は心のどこかで、自由に自分の時間を使える久美の生活を 羨みながら、電話をリビングのテーブルの上に置いた。
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