1章:パーティ

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パーティ会場に向かう電車の中、 典子は昔を思い出した。 思えば、学生時代は気楽だった。 毎週、友達同士で遊び、騒いでいた。 ひと夏の思い出、一晩の思い出。 もちろん手痛い失敗もあったけど、 毎日が刺激的で楽しかった。 男女共学の大学だったからでもあるが、 典子の周りには、いつも男の子がいた。 特別、整った顔だちではないが、 それでも、言い寄ってくる男の子には事欠かなかった。 ああ、あのころは楽しかったな、 典子はつくづく思い、電車の窓に映る自分の顔を眺めた。 風呂上りの健一に、 典子は久美からの電話の話をした。 「久しぶりよねー、 最近、会ってなかったからな、久美には。 あいかわらず、忙しく働いてるみたいね」 「へー」 夫の健一は、 いつものように、ノートパソコンをカタカタうちながら、 聞いているのかいないのか分からない返事を典子にした。 「でも、懐かしいわー パーティとか。学生時代はよく行ってたもんだけど」 「そうなんだー」 健一はビールをくびっと飲んだ。 「これでも学生時代はかなりモテたんだからね」 典子は自慢げに言ってみた。 健一からどんな反応を期待していたわけではない。 ただ、そう言ってみたかっただけ。 健一は、へーそう、と声だけは一人前に聞いている風に 返事をした。 それから話がどうゆう経路を通って 典子がパーティに行くことになったのか、 細かい部分は典子自身もよく覚えていない。 だけど、健一から 「行ってみれば、たまにはそうゆう息抜きも必要でしょ」 という言葉を聞いた時には、思わず小躍りしてしまった。 電車の窓に映る自分の顔を 典子はあらためて、眺める。 学生時代とは変わった自分。 どこか変わったのか。 自分にも良くわからない。 顔は変わっていないように思う。 私だけか、そう思うのは。 31歳にもなれば、お肌の曲がり角はとっくに曲がりはじめている。 目の下のしわも増えた。 学生時代は顔にしわなんてひとつもなかったのに。 時間は残酷なほどに、顔に刻まれていた。 それでも心は、踊っていた。 久しぶりに華やかな場所に行ける。 それでけで心は踊った。 子供が生まれた後は、 まともにおしゃれなんてしたこともなかったのだ。 典子は電車に映る自分の顔を見て、 にっこりと笑った。 (続く)
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