1章:パーティ

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典子は新宿で乗り換え、 六本木でおりた。 地下から地上に上がると、 街のネオンがまぶしかった。 街にはサラリーマンやOL、 派手な格好をした女の人がたくさんいた。 六本木は夜の街だった。 典子の気分は自然に高揚した。 学生時代によく遊んでいたのは 新宿や渋谷、吉祥寺だった。 社会人になると、 会社のある四ツ谷が生活の中心になった。 飲み会があると四谷駅付近か新宿。 一度決まった生活圏を超えることはほとんどなかった。 典子にとって夜の六本木は新鮮だった。 31歳にもなって、夜の街に興奮するなんて なんだか恥ずかしい気持ちになった。 典子はあらためて自分の服装やメイクが気になる。 自分だけ街の景色の中から浮いてる気がして 気持ちがそわそわする。 行き交う人の視線がなぜか痛くて 何度も自分の服を見てしまう。 典子は大通りからひとつ入った小道に逃げ、 カバンから鏡を出した。 もう一度、自分の容姿をチェックした。 うん、大丈夫。 鏡には31歳の女がうつっていた。 大丈夫。 典子は自分で自分を励ますように言い、 歩き出した。 パーティの会場は駅から徒歩10分ほどのところにあった。 お店の看板には「Vanity」と書かれていた。 ここが今日の会場だ。 典子はお店の前できょろきょろあたりを見回した。 久美はまだ来ていないようだった。 (続く)
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