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「一週間以上、待たされたな。気が気ではなかったぞ」
携帯電話から尾瀬が言う。
「仕方がないでしょう。事情が事情ですから」
「それは、そうだが」
「辰巳のことは調べてくださいましたか」
「探偵を雇ったよ」
「申し訳ありません」
「ぼくに捜査能力がないから当然だ」
「昔だったら、ご自分も動いたはず」
「そういうな。実は最初、少し動いた。けれども手がかりがまるで掴めなかったので……」
「確かに名前しか、お知りにならないですものね」
「顧問をしている会社は知っているよ」
「そうでしたか」
「だが、顔がわからない。会社に出向いて尋ねればわかるだろうが、目立っても不味い」
「……それで、どうでした」
「ご自宅には帰っていないとわかったよ」
「済みません。この家に帰っていれば、尾瀬さんの手を煩わせることもなかったのに……」
「ご主人がご自宅に帰らないと、あのとき瑠衣子さんは予想したのか」
「確信はありませんでした。でも娘が夫のことを話さないし、何となく……」
「夫婦なんだな」
「結局、偽夫婦でしたが……。そういえば、亡くなった佳代子さんは尾瀬さんとご自分たちのことを仮面夫婦だと……」
「佳代子らしいね」
「尾瀬さん、奥さまのことを忘れてはいけませんよ」
「仮面夫婦でも夫婦は夫婦さ。簡単に忘れられるものじゃない」
「それならば良いのですが……」
「事情は瑠衣子さんのところも同じだろう」
「いえ、わたしはもう夫のことを忘れました」
「しかし瑠衣子さん……」
「わたしが気にしているのは辰巳悟史であって夫ではありません」
「怖いな。女は皆、そうか」
「人のことはわかりません」
「佳代子はどうだろうか」
「わたしには佳代子さんの心の中のことが一番わかりません」
「なるほど」
「で、辰巳のことは……」
「今暮らしている場所は――書類によると――会社近くのホテルだな。そこからアパートを探しているようだが、見つからない……というか、決めかねているらしい」
「そうでしたか。この家に戻ってくる気がないんですね」
「瑠衣子さんにあげた気でいるんじゃないか」
「自分の家なのに……」
「そう言うな」
「では仮にそうだとして、わたしと夫との離婚が成立したら、尾瀬さんはこの家に入りますか」
「まさか。そのケースは想定外だったな」
「わたしの夫の匂いが染み込んだ家ですからね」
「それを言ったら、瑠衣子さんの身体には辰巳さんの匂いが染み込んでいるよ」
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