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「前のとき、お感じになった……」
「いや、気づきもしない」
「それならば染み込んでいないでしょう」
「そういう理屈か」
「で、暮らす場所以外のことは……」
「仕事には通っているようだ。今回の件は会社には伝わらなかったのかな」
「事件にはしませんでしたから」
「それは瑠衣子さんが目覚めた後のことだろう」
「本人が警察に電話をしたし、すぐに身柄を確保されたから、警察がそれ以上動かなかったんですよ」
「刑事小説とは大違いだな」
「企業モノの小説だって、尾瀬さんの目から見れば単なるフィクションでしょ」
「多くはそうだな」
「他には何かありますか」
「瑠衣子さんの娘さんの旦那さん――壮太さん――と数回会ったらしい」
「それは娘にも聞いています。継続して会っていたんですね」
「何か企んでいるのか」
「わたしと直接会いたくないから代理人にしたいのと違いますか」
「壮太さん、お宅には……」
「今のところ、現れていません」
「交渉が上手くいってないか」
「わかりませんけど、そんなところでしょう。他には……」
「動きとしてはない。ホテルの所在地とか、壮太さんと会った喫茶店とかは教えられる。後でメールしよう」
「お願いします」
「ところで瑠衣子さんの方はどうなんだ。ぼくも情報が欲しい」
「傷が癒えている最中ですよ」
「まだ痛むのか」
「痛さはそうでもありませんが、傷跡が……」
「今の技術なら、回復後に直せるだろう」
「いえ、この傷はわたしの緋文字(ひもんじ)」
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