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「吃驚しましたよ。でも、まあ、あれだ……」
尾瀬の口調が弱々しい。
往年の自信家はどこにもいない。
が、尾瀬は尾瀬。
わたしが嘗て愛し、今でも愛している男。
「ニュースにでもなったのかしら。それで気づいて……」
わたしが言うが、言葉にならない。
娘がわたしの表情を読み取り、
「ニュースになんかならないわよ。だってお母さん、軽症だもの」
と答える。
では尾瀬はどうして、ここに……。
「お母さんから電話をする予定があったのに、それがないから家に連絡を下さったのよ」
そういうことか。
マメな尾瀬。
その顔を見つめ、
「わざわざ、お見舞いを申し訳ありません。とんだ情けない恰好をお見せして……」
礼を述べる。
後半がやっと言葉になったようだ。
それを確認し、
「お母さん、あたし、ちょっと先生のところに行ってくるから。お母さんの気が付いたことこと報告してくるから」
娘が言う。
「済みません。尾瀬さんでしたっけ、暫くの間、母をお願いします」
そう続け、病室を出る。
娘の表情は伺えない。
が、わたしと尾瀬に気を使ってくれたに違いない。
「あの子にはバレちゃったわね」
「いったい何があったんだ」
「事情はご存知じゃないのね」
「わかるものか。とにかく、あなたが入院していると聞き、駆け付けたまでだ」
「刺されたんですよ」
「誰に……」
「亡くなった尾瀬さんの奥さまでなければ、わたしの夫しかいないでしょう」
「ぼくのせいだ」
「やめてください。夫を裏切ったのはわたしです。尾瀬さんは関係ありません」
「関係ないことはないだろう」
「では半分の責任を……」
「しかし、どういうことなのだ」
「娘が話すとも思えないので、いずれ、わたしからお伝えします」
「そうか。それまで待てんが、瑠衣子さんがそう言うなら……」
「代わりに夢現でお医者様から聞いた……というより娘に話していた内容を教えましょうか。大量の血は流れましたが、ナイフは肋骨が受け止めたそうです。だから傷は浅い。素人は胸を狙ってはいけないのですね。きっと失敗するから。だから殺意があって刺すのならお腹……」
「瑠衣子さん、ちょっと可笑しくないか」
「頭がやられたとは思いません。でも病院での記憶がありません。失血して気を失い、床に頭を打つけたかもしれません」
「まるで他人事だな」
「尾瀬さんに頼みたいことがあります」
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