2 会話

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「何でも言ってくれ」 「わかる限りで良いですから夫の状況を調べてください」 「聞かされていないのか」 「わたしは、ついさっき目を覚ましたのですよ。病院で最初に気づいたのはもっと前ですが、そのときは朦朧として」 「なるほど。だが、知ってどうする」 「まだ考えていません」 「旦那さんのことは訴えないのか」 「悪いのはわたしです」 「しかし、あなたは被害者だ」 「仮にわたしが死んだとして尾瀬さんはわたしの夫を訴えますか」 「それとこれとは話が違う」 「そんなに違いませんよ」 「瑠衣子さん、やはり少し可笑しいのでは……。ショックのせいだろうか」 「可笑しいのは過去のわたし。今のわたしは明晰そのもの」 「怖い人だ」 「尾瀬さん、わたしから逃げ出すなら今ですよ。今なら、わたしは恨みません」 「ぼくは前に逃げたからね。今度は逃げないよ」  尾瀬がそう言い、わたしの目を強く見つめたとき、病室の外で気配がする。  おそらく美緒が医者を連れて来たのだろう。 「尾瀬さん、今日はもうお引き取りになって」 「しかし……」 「暫く連絡できないかもしれませんが、わたしは生きますから」 「そうか」 「では……」 「うむ。長居をしてはお身体に触るだろう。今日は失敬することにするよ」 「ええ、お見舞い、ありがとうございました」  最後の会話は医者と娘に向けたもの。  が、どこまで効果があったか……。 「辰巳さん、お加減はどうです」  わたしの担当医はイケメンの若い医者。  昔風だが、美人の看護婦が後ろに控える。  この医者もやがて多くの女を泣かせるのだろうか。  その最初の犠牲者が、この看護婦なのだろうか。  そんな馬鹿々々しい妄想が、わたしの頭に咄嗟に浮かぶ。  尾瀬が言うように、わたしは少し可笑しいのかもしれない。 「どこもかしこも痛くて怠いですよ」  わたしが口にしたのは自分の状態。  大袈裟にボヤくとイケメン医師が言う。 「痛み止めの薬を増やしましょうか」 「そうするとボーッとなってしまうんでしょう」 「痛みを感じる神経を緩和させるのですから仕方がありませんね」 「では我慢しきれなくなったときにお願いします」  わたしが言い終わるとイケメン医師が娘とわたしに向かい、わたしの病状を説明する。
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