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「何でも言ってくれ」
「わかる限りで良いですから夫の状況を調べてください」
「聞かされていないのか」
「わたしは、ついさっき目を覚ましたのですよ。病院で最初に気づいたのはもっと前ですが、そのときは朦朧として」
「なるほど。だが、知ってどうする」
「まだ考えていません」
「旦那さんのことは訴えないのか」
「悪いのはわたしです」
「しかし、あなたは被害者だ」
「仮にわたしが死んだとして尾瀬さんはわたしの夫を訴えますか」
「それとこれとは話が違う」
「そんなに違いませんよ」
「瑠衣子さん、やはり少し可笑しいのでは……。ショックのせいだろうか」
「可笑しいのは過去のわたし。今のわたしは明晰そのもの」
「怖い人だ」
「尾瀬さん、わたしから逃げ出すなら今ですよ。今なら、わたしは恨みません」
「ぼくは前に逃げたからね。今度は逃げないよ」
尾瀬がそう言い、わたしの目を強く見つめたとき、病室の外で気配がする。
おそらく美緒が医者を連れて来たのだろう。
「尾瀬さん、今日はもうお引き取りになって」
「しかし……」
「暫く連絡できないかもしれませんが、わたしは生きますから」
「そうか」
「では……」
「うむ。長居をしてはお身体に触るだろう。今日は失敬することにするよ」
「ええ、お見舞い、ありがとうございました」
最後の会話は医者と娘に向けたもの。
が、どこまで効果があったか……。
「辰巳さん、お加減はどうです」
わたしの担当医はイケメンの若い医者。
昔風だが、美人の看護婦が後ろに控える。
この医者もやがて多くの女を泣かせるのだろうか。
その最初の犠牲者が、この看護婦なのだろうか。
そんな馬鹿々々しい妄想が、わたしの頭に咄嗟に浮かぶ。
尾瀬が言うように、わたしは少し可笑しいのかもしれない。
「どこもかしこも痛くて怠いですよ」
わたしが口にしたのは自分の状態。
大袈裟にボヤくとイケメン医師が言う。
「痛み止めの薬を増やしましょうか」
「そうするとボーッとなってしまうんでしょう」
「痛みを感じる神経を緩和させるのですから仕方がありませんね」
「では我慢しきれなくなったときにお願いします」
わたしが言い終わるとイケメン医師が娘とわたしに向かい、わたしの病状を説明する。
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