黄色い蝶 1.ある朝、災厄が倒れ込んできた

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 それなのに。  今、俺は、スクランブル交差点を見下ろすカフェで、途方に暮れている。  目の前には、同じく、固まってしまった希恵。  「ええと、鷹松君。胸の辺りに巻きついている、その……」  カフェの店員が、二人分のコーヒーを運んできた。  落ち着き払って、テーブルにソーサーを配すると、優雅に一礼して立ち去った。  二人の間の、微妙な空気は感じたろうに、一切、気配に現さなかった。  俺の方を、ちらりと見ることさえ、しなかった。  さすが、接客のプロだ。  「まずは、コーヒーでも飲もうか」  二人で固まっていても仕方がない。  震える声で俺は言った。
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