決戦前日

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 三百球ほど入っているケースを智樹が運んでくる。  グラウンドでは、思い思いの練習をする三年と手伝う後輩の姿がちらほらと見える。  智樹が左打席でバットを構えた。夏奈はケースをまたぎ、やや離れた場所からボールをトスした。  キン、と金属バット特有の高い音が響き、打球がネットに吸い込まれていった。 「なあ」 「なに」  打球の勢いで一瞬膨らんだネットがしぼんでいく。 「シロに声かけてやれよ?」  城崎のことだ。智樹はクラスも同じで、昼食もほぼ毎日一緒に食べるくらい仲が良いらしい。 「なんで?」 「なんでって」  口をつぐんだ智樹は、一度バットを肩に預け袖で額の汗を拭った。言わんとしていることはわかる。視線から逃げるように、夏奈は手にした硬球に目を落とした。  赤い糸がほつれた粗末なもの、普通のものより重くなってしまったもの、傷がついているもの――いずれももうほとんど使われないボールだ。  自分はどのボールだろうとふと思った。  ちゃんと縫われているし、肩や肘に負担のないちゃんとした重さのはずだ。もちろん傷なんてない。
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