朽ちる世界とソドムの子供

鷹に攫われて

2.

　ネットの闇は深い。記事で使われる定型文を思い出した。
「懐中電灯、替えの電池、下着と最低限の服……それと、包丁」
　大型匿名掲示板でスレッドを立てて知恵を借りた結果だが、これでは自分ひとりで選んだって変わりはない。むしろここに戻ってくるつもりなら手ぶらの方がよっぽど身軽ではないかとも思えてきた。
　しかし、外の状況を知れたのは大きい。ご丁寧にアレの画像まで添付してくれたおかげで食欲まで失せたほどだ。
「奴らに遭遇したら、迷わず、逃げる」
　歩く屍。腐った化け物。掲示板の住人達の大多数がおなじ認識で、みんなアレをゾンビと呼んでいた。ホラー映画でおなじみのあの化け物である。
　彼らがゾンビについて理解していることは予想に反して多かった。人を食べるとか噛まれたら感染して自分もゾンビになるだとか、そんなわかりきったことばかりだと高をくくっていた。
　ひとつ。ゾンビの力は非常に強い。ひとつ。脳を破壊すれば行動不能には出来る。ひとつ。水に浸かると動きが鈍る。ひとつ。丸焼きにして消し炭にでもしない限り、ゾンビは何度でも立ち上がる。
　他にも色々と細かい記述が幾つかあった。病院、駅前、学校など、人口密度の高い場所には近寄るな。他に生きてる人間を見ても安易に信用するな。犬や猫、感染してる恐れのある生き物は細心の注意を払え……掲示板の住人は否定的な言葉を書き込む者もいたが、基本的には親切だった。
　ありがとう。行ってきます。そう書き込みをした後、電源を落とそうとした時にポーンとメールの着信音がスピーカーから響いた。驚いてわたわたとしたが、恐々とマウスを移動させてメーラーを開く。掲示板の住人らしき人物からだった。