鷹に攫われて

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 外の景色は予想以上に荒廃していた。  電信柱に頭から突っ込んだライトバン。 右を見ても左を見ても乾いた血の跡が視界に入る。アパートから数十メートルを歩いた所で蝿のたかった人体の一部を発見しアスファルトの濃紺に嘔吐した。 「ぅ、ぐ、んんっ」  苦く据えた胃液が喉を焼き鼻腔と口腔を刺激する。何にも入っていないはずの胃袋の中がぎゅるぎゅると回っている気がして思わず蹲った。  はやく、慣れなければ。  今の今まで部屋に篭っていたせいか、それとも目にしたものがあまりにショッキングだったせいなのか。心身ともに最悪のコンディションだ。  荒くなった息を整えるのにしばらくかかった。  とにかく食料を確保しなければ。気をしっかりと張ってなんとか立ち上がる。今はとても食べる気はしないが、いつか必要になるなら早めに手に入れておいたほうがいい。  たしかこの近くにスーパーがあった筈だ。あそこまで行けば薬局もあるし、しばらくは困らないだろう。が。 「……人口密度の高い場所には近寄るな」  掲示板の書き込みを思い出す。きっと、この状況に陥って真っ先に人がなだれ込んだのは病院だろう。次に警察などの国家機関。そして事態の収拾がつかなくなった中期には兵糧の調達に多くの人間が足を運ぶ。その先はコンビニや飲食店。そしていま行こうとしていたスーパーマーケットなんかだ。  私はふと思う。安全だけを考えるなら、普段から人気の少ない郊外へ向かうのが一番かもしれない。極論を言えば山の中でキノコや山菜を積み、庭で畑でも耕していた方がいい……それだけのノウハウがあるならの話だが。
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