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新築らしい民家のドアには鍵がかかっていなかった。
車もないところを見るとあの日は外出中だったのか、それともしばらく経ってから慌てて逃げ出したのか。
どちらにせよ私にとっては好都合だった。窓や鍵を壊すには道具がいるし、何より音を立てればゾンビが集まってくるかもしれない。リスクを軽減できるならそれに越したことはないのだ。
「お邪魔します」
ドアを開けて無意識に呟く。今更そんなことをしても意味はないのだけれど、習慣というものはなかなか抜けるものではない。私は玄関で靴を脱ぎフローリングの床にそっと足を乗せた。鍵はかけずにドアだけを閉めた。
玄関口からあがって最初の部屋はリビングだった。この家の住人はなかなか綺麗好きらしく整理整頓が行き届いていた。
大きな薄型液晶テレビ。ベージュのシンプルデザインソファ。備え付けのオープンキッチン。上流家庭というものだろうか。視界の端々に映る小物からセンスの良さがうかがえた。
「……」
キッチンの中もやはり綺麗でシンクには水垢一つついていない。隣はガスコンロではなくクッキングヒーターらしい。
ずんぐりと大きな冷蔵庫の扉に触れてみる。熱はない。だいぶ前から電気が通っていないようだ。
これはもうダメだろうな。そう思いつつも取っ手に手をかけて開いてみる。案の定、中に入っていた食料はほとんどが腐っていた。
「うわ、なにこれ……」
カラメル色に変色した豚肉が発泡スチロールのパック内ででろりと伸びている。ラップからは茶色い液が滴り、臭いが凄まじかった。
落胆が疲労を誘う。どうやらここの家はその日食べる分しか買わないようにしているようだ。キャベツの半玉は名前もわからない虫が湧き、もやしはの入った袋は内側で水分が出きってしまいたぷたぷ。腐ってガスが溜まっていたと思われる卵はすべて破裂して殻を冷蔵庫内に撒き散らしている。
下の冷凍庫と野菜室を開く気にはなれなかった。これ以上は鼻が曲がりそうだった。
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