鷹に攫われて

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 ダイニングと二階への階段を通り過ぎバスルームの隣にある扉を開く。空気に感じる埃っぽさは殊更だ。 「普通なら、取り出しやすいところにあるよね」  まずは手前の方から探してみる。冬衣の入ったクリアボックス。使っていないゴミ箱や洗濯籠の中。順繰りまわって探す。十分ほど経った頃、小物の入った収納ケースを見つけた。 「あった……」  ホッとして表情が綻ぶ。使いかけの袋には羽根つきのシートが三枚だけ残っていた。  数える程度の量でもこれだけで安心感が違う。最悪なくてもなんとかなるけどいちいち下着が汚れるのは嫌だった。また、それを見たときのやるせなさを感じなくて済むのはありがたい。 「あれ?」  袋を取り上げてその下に何かが落ちていることに初めて気がつく。何かと思い目をやると、それは赤い包みに入ったお菓子だった。 「……」  息がつまる。ゆっくりと手を伸ばし、私はそれを指でつまんで確かめた。包み紙には幼い男児の笑顔が印刷され、その上に商品名が記されてる。昔からある有名なビスケット菓子だ。  肩が震え、声を押し殺すと呼吸が荒くなる。どうしようもなく切なくなった。たった一つの、一口サイズのビスケット。それでこんなに嬉しくなっている自分の惨めさが否応なしに涙を誘った。 「ぃ、ただき、ます」  ボロボロと雫が溢れる。私はぐしゃぐしゃの顔で包みを破り、やはりぐしゃぐしゃの顔でビスケットをかじった。湿気った甘さがすごく美味しかった。
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