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先ほどまでの静かな緩やかな世界がまるで夢であったかのように、その音は強く、乱暴に鳴り響いていた。
トゥルルルル・・・・トゥルルルル・・・
俺とひかりはお互いに目を見開き、一瞬、視線を通わせると、同時に笑った。
「・・・ふふ、ふは、」
「・・・は、ははは、」
多分、俺たちは一瞬だけ繋がってしまったのだと思う。
電話が鳴る、ほんの一瞬前。
俺とひかりは、きっと、同じ思いを抱いた。
それは繋がった瞬間に、一瞬にして解けてしまったけれど。
だから、もうそれを確かめることはできないのだけれど。
でも、確かに繋がった気がしたんだ。
トゥルルルル・・・・トゥルルルル・・・
「大ちゃん、電話でないと。」
「あ、うん。」
繋がったことをお互いに感じたのに、それを確かめられなかったことに、俺は少しだけ残念に思ったけれど、同時に少しだけほっとしてもいた。
それは、きっと、ひかりも同じだったのだろう。
だから、俺たちは、笑った。
笑うしかできなかった。
繋がった瞬間の嬉しさよりも、恥ずかしさの方が俺たちには残っていたから。
そのことに気づかないように、蓋をするように、俺たちは笑ったのだ。
「北海道からお土産送ったから、受け取っておいてって。」
「智子さん?」
「そう。」
受話器を置いた俺は壁の時計に目を向ける。
ひかりも俺の視線につられるように時計を見上げた。
「もう12時になるね。」
「電話かかってきたの、11時前だった気がするけど・・・」
「大ちゃん、ほとんど、「うん」とか「あぁ」とかしか言ってなかったのにね。」
「・・・母さん、一人でずっと喋ってたからな。」
「きっと、おじさんも翔太くんも先に寝ちゃったんだろうね。」
ひかりが膝の上に開いていた雑誌を閉じ、テーブルに置いた。
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