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「藤倉さぁ、なんで野球にしたの?」  コショウの入った瓶へ手を伸ばしながら、安田が何でもないことのように聞いてきた。俺は割り箸を両手でキレイに割ると、ラーメンの汁の中に突き刺した。熱々の湯気をまとった麺が釣れる。 「別に。なんで?」 「いや、俺てっきり藤倉も中学で野球やってたんだと思ったからさ。」  安田はこれでもかとコショウをふんだんにかけてから、割り箸を割った。俺は安田のラーメンから漂うコショウの香りを嗅ぎながら、自分のラーメンを勢い良く啜った。まだ熱っちぃな。舌の先がピリピリとざらつく。 「やっぱ俺みたいなのはダメかなぁ。」 「いや、ダメってことはないけど・・・バスケやってたなら、なんでバスケ部にしなかったんだろうって。単純な疑問?」  安田が「熱っ」と言いながらも、美味しそうにラーメンを掻き込んでいく。俺はしばらくラーメンに夢中なフリをして、安田の質問に答えなかった。すると、安田が「ま、俺は大歓迎だけどね。」と笑って質問を引っ込めた。 「安田はいつから野球やってるの?」 「俺?俺は・・・小学校三年生かな。近所の少年野球チームに入ってたよ。」 「へぇ。強かったの?」 「いや、弱小。弱かったなー。勝った思い出の方が圧倒的に少ない。」 「嫌にならなかったの?」  俺はラーメンから顔を上げて、隣の安田の顔を横目で伺った。 「まぁ、負けて楽しいってことはなかったけど。でも、やめたいって思ったこともないかな。俺、他になにもできないし。」 「いいな。」 「え?」
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