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 野球部の部室の前で、俺は少し緊張していた。中からは、今日のダッシュ何kmかなとか、先輩たちもうちょっと遅く来てくれると助かるのにとか、すでに入部している一年生と思われる声が聞こえてくる。  俺は一度大きく息を吸い込むと、その勢いのままにドアをノックした。乾いたノックの音が響き、中にいる部員たちの声が止んだ。ドアの外を伺う静かな空気が流れているようだった。俺はドアを開けて、彼らの視線から逃げる様に頭を大きく下げた。 「入部希望です。宜しくお願いします。」  やや間があって、「なんだよー」と誰かが言うと、一瞬で張りつめていた空気が緩んだ。「監督かと思ったぜ」「まじ、ノックの音、心臓に悪いわ」緩んだ空気に部員たちが口々にしゃべり出す。俺は頭を下げたまま、どうしようかと言葉を待っていた。すると、聞き覚えのある声が聞こえた。 「藤倉じゃん。」  俺が顔を上げると、同じクラスの安田が目の前にいた。 「監督はまだ来てないから、とりあえずジャージに着替えちゃって。」  安田がそう言うと、また別の誰かが「このロッカー空いてるから。」と教えてくれた。 「あ、ありがとう。」  俺がまっすぐ背筋を伸ばすと、とたんに周りの空気がちょっとざわついた。 「お前・・・身長いくつ??」  安田の隣にいた眼鏡をかけた部員が俺の顔を見上げて、聞いてきた。 「186・・・かな。」  見渡す限り、俺より身長の高い部員は見当たらない。みんなが俺を見上げていた。すると、安田が止まった空気を動かすように声をかけた。 「俺たちは監督と先輩が来る前に準備しなきゃだから、先行くけど、お前は監督のところに挨拶が先かな。」  安田がポンと俺の背中を叩いた。「藤倉が来てくれるなんて、マジ嬉しいわ。」出会ってまだ二週間しか経っていない安田がそう言って、他の部員たちも安田につられる様に部室を出て行った。
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