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マウンドに集まった俺たちの元へ、兵頭が走って来た。
小野田は、一度ぐるりと周りを見渡してから、持っていたボールを兵頭に手渡した。いつもの飄々とした表情は消え、うつむいたまま消えそうな声を絞り出す。
「ごめん、」
その言葉が、その声が、俺の中で懐かしい痛みと息苦しさを蘇らせる。
……俺はまた繰り返してしまったのだ。
握りしめた右手の中で鈍い痛みが突き刺さる。
噛み締めた唇の先から鉄臭い味が広がる。
それでも、一度蘇った痛みは決して消えない。
ジリジリと焼きつくような熱が真上から突き刺さり、呼吸をするのも苦しいほど重い空気に飲み込まれそうになっていた、その時。
安田が何か言葉を発しようと動きかけたが、兵頭の方がそれよりもわずかに早く口を開いた。
「何を謝っているんですか?先輩にしては上出来ですよ。ここまでもったんですから」
「!!」
集まった全員が、兵頭へ顔を向けていた。
「正直、もっと早く投げたいくらいでしたよ、俺は」
兵頭が表情を変えずに口元だけで笑った。
それを見た安田が「お前のその表情こわいな」と真顔で言ったので、その隣に立っていた香川が堪えきれずに小さく吹き出した。
そして、小さな笑いが伝染していく。
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