63ー5

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「ストライク!」  真後ろの球審の声をかき消すように、球場中から歓声が上がる。  空気が動くのを、はっきりと肌で感じる。  表示された球速に、さらに観客がざわめいた。  ドクンッ……  バッターは空振り、ランナーは塁から動くことさえできない。  球場中の視線は目の前の兵頭に注がれている。  これは、俺が望んだ光景そのものだ。  それなのに、どうしてだろうか、俺の心臓は大きな音を立て、そして指先は小さく震えていた。    これが、兵頭の「今」の全力。  じゃあ、この先は……?  小野田のようにギアを上げたら、どこまでいくんだ?  ドクンッ……  再び大きく音を鳴らした心臓が、俺の頭の中で小さな痺れを起こさせた。  俺は、本当に、ついていけるのだろうか……???    こわい。  兵頭に対して、初めて思ったかもしれない。  スコアボードの球速表示から、視線を移すとライトを守る篠崎の姿が目に入った。  今なら、あの時の篠崎の気持ちがわかる。  圧倒的な実力を前にした時、単純に喜ぶだけだった自分はなんて幸せなやつだったのだろう。    
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