8人が本棚に入れています
本棚に追加
-文久三年 某月某日-
京の郊外に、ひっそりと深い森の木々に隠れるように建つ、大きな舘があった。見たことない………言うなれば『洋館』と言った感じの、この時代にはそぐわぬもの。
いつから建っているのか、誰が建てたのかすらも不明だが、この舘に暮らす者達にとっては好都合なのであろう。
-だって。真っ当な生き方など、してはいな
いのだから-
ただの町民や農民ではない。かと言って、商人でもなければ武士でもない。決まった主を持たぬ、裏稼業集団。
それが、この舘に住む者達の生業。その内容こそ、かなりの多岐に渡るのだが………。
「───と言うわけだ。わかったかい?可愛い宵。」
この舘の中で一番広い部屋。この舘の主であり、裏稼業集団の長でもある男は、西洋風の大きな天蓋付きの寝台の上で上半身だけ起こし、腕の中に抱き締めている若者の耳元で、囁くように告げた。
程よく鍛えられた長身の美丈夫。漆黒の長い髪に闇色の瞳。歳の頃は『二十代後半』と言ったところだろうか。
「………うん。夜には、それが必要?そうすれば喜んでくれる?」
最初のコメントを投稿しよう!