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甘えるように問い掛ける若者の口調は、見た目に反して幼く思える。少しくせのある紫色の光沢を放つ漆黒の髪に黒曜石のような瞳の秀麗な若者。歳の頃は『二十歳前後』。
まだ少年とも、もう青年とも言える妙齢の若者である。小柄ではあるが華奢ではなく、無駄な肉を削ぎ落としたような細身で、しなやかな躰をしている。
よく見ると、若者の肌の到る所に紅い花弁が舞っている。恐らく、若者を抱き締めている男が付けたであろう『情事の名残』。
「勿論だ、宵。やってくれるね?」
「わかった、夜がそう望むなら。夜が言うなら、それはきっと必要なことだから。」
『宵』と言う若者は、どうやら『夜』と言う男の言葉に妄信的に従っているようだ。夜は宵に口付けを落としながら言う。
「いい子だ、宵。私の望む泰平の世。貧富の差のない、平和な国の実現の為には『あの男』の存在は、必ずや妨げになる。」
強い意志を宿した瞳で、そう言った夜の拳に宵が手を添えた。
-夜の為なら、俺はどんなことだって出来る-
その想いを伝えるように、触れる指先は温かい。
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