8人が本棚に入れています
本棚に追加
-数日後。京 市中-
結局。失神するまで夜に愛された宵は、腰の〝鈍痛〟にまともに動くことができず(夜は嬉しそうに微笑っていた)、今日になって漸く舘を出ることが出来た。
時刻は昼をとうに過ぎ、夕刻に差し掛かっていた。けれど、宵に与えられる任務は全て〝夜半を過ぎてから〟のもの。然したる問題はない。
こうして市中を歩いている時の宵は、道行く人々となんら変わらない。何処にでもいる、普通の町人のようだ………
-その独特の雰囲気と、他に類を見ない秀麗
な容姿以外は-
現に、すれ違う人々(特に若い娘達)は頬を染めて、宵を振り返って見ているほどだ。
しかし、当の宵はどこ吹く風。興味さえも示さない。だって宵には『夜』だけだ、『夜』さえいれば他に必要なものなどない。
この心も躰も〝夜のモノ〟。躰と技は、夜の傍にいる為の只の道具。何よりも尊ぶべきは、己よりも夜の身命なのだ。
夜の言葉は言霊………『神の託宣』にも等しい。夜こそが宵にとっての、この世の総て。
宵の世界は言わば、閉じた箱庭。その箱庭の中心にいるのが『夜』なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!