一話 ぼくが巫女さんに

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「……あの、これって、巫女さんの格好ですよね」  目の前にあるのは、神歩が身に着けているのとおなじ白衣と袴。だが、袴の色が違う。神歩のは浅葱色だが、そこにあるのは緋色の袴だ。 「手伝うのは別にいいんですけど、なんでこうなるんですか?」 「ごめんね。これしか着てもらうものがなかったの」 「……どうしてもこれを着ないといけないんですか?」 「もちろんよ」  これ以上ないくらいの笑顔でうなずかれた。 「いくらなんでも、女の子の格好なんてできませんっ」 「そう、困ったわ。いちおう、恵子さんに聞いてくるわね」  そう言って、神歩は部屋を出ていった。  いちおうと言うからには、まあ、無理なのだろう。  いちおう待っていると、神歩はすぐに戻ってきた。 「女の格好で恥ずかしいのも、罰として受け入れろ。あの神体の鏡はな、現代の物の価値はよくわからんが、大きな家一個分はするものなんだぞ、だそうよ」  神歩はそう言って、舌をぺろっと出した。 「う、そうですか……」  すてきな人だな、と、ちょっと憧れをいだいている神歩にそんな態度をされては、さすがのヒロも嫌だとは言えない。  弁償するにしても、おそらく数千万円ものお金を払えるはずもなく、ヒロは仕方なしに受け入れることにした。 「はあ、わかりました。この格好で我慢します」 「うん、それがいいと思う。だってヒロくんの顔、女の子みたいでかわいいもの。巫女の格好も、きっと似合うわ」 「はあ……」  そんなことを言われても、困る。 「私は廊下で待っているから、着付けでわからないことがあったら呼んでね」  神歩は部屋の外へ出ると、ふすまをそっと閉めた。  もう、こうなったら着るしかあるまい。  ヒロは服を脱ぐと、白衣を着て、緋色の袴に足を通した。
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