一話 ぼくが巫女さんに

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 途中、帯の止め方などで神歩に手伝ってもらいながらも、どうにか巫女の装束に着替えたヒロは、恵子のもとに戻った。 「お、ちゃんと着替えたな。よしよし」  言いつけ通り、巫女の格好をしているので、恵子は機嫌がよさそうだ。 「着心地はどうだ。明日からひとりで着れそうか」 「え、あの、その」  ヒロがしどろもどろしていると、代わりに神歩が答えた。 「だいじょうぶみたいですよ。ただ、着物にはなれていないようなので、ひとりで着るのはまだ難しそうですね」 「わかった。それじゃあ、今日からよろしく頼むな」  はじめ、ヒロはそれを自分にむけられた言葉だとは思わなかった。  もう一度、目の前で言われたので、自分にむかって話しているのだと気がつき、びっくりした。 「神歩、いろいろと教えてやってくれ。私はちょっと出かけてくるから」 「はい、わかりました」  恵子が部屋から出ていくのを、神歩はお辞儀をして見送った。  神歩が顔をあげても、ヒロはまだ、びっくりが残ってて心が落ち着かなかった。  なにせ、大人の人に面とむかって「よろしく頼む」と言われたのは初めてのことなのだ。  まるで、自分が一人前になったような感じがして、嬉しかった。 「ヒロくん、境内の掃き掃除から始めましょうか」 「は、はい!」  元気よく返事をしたヒロを見て、神歩は少し驚き、それから、にっこりとほほえんだ。
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