一話 ぼくが巫女さんに

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 ほこりやら砂やら、落ち葉やらが積もっていて、境内の掃除は思った以上に大変だった。 「ヒロくん、その場所が終わったら、石段の方もお願いね」 「はい!」  誰かに頼られるのがこんなに嬉しいことだとは、ヒロは今まで知らなかった。  なぜだか、いつも以上に力が出て、自然と声も大きくなった。 「お、がんばってるな。初日からそんなに力を入れて、へたばるなよ」  ヒロが石段を掃こうとすると、恵子がのぼってくるのが見えた。 「いえ、だいじょうぶです。まだやれます」 「ほう、こりゃまた。別人のようにしっかりしてきたな」  恵子が感心の声をあげたのももっともな話で、現に当事者のヒロも、言われて初めて、自分がまるで別人のようにしっかりとしていることに驚いた。 「これも、その装束のおかげだな」  恵子はヒロがはいている、緋色の袴を指さした。  どうして着ている物が関係するのだろう、と思ったヒロは、疑問を口にした。 「それって、どういうことですか?」  恵子はほほえみながら、ゆっくりとうなずくと、言葉を発した。 「その袴にはな、神に仕える歴代の巫女の血と汗が混じっているんだ。だから、それを見につけていると、心が清らかになるのさ」 (歴代の巫女の、血と汗……)  汗はともかく、血は嫌だった。  この緋色の袴には、血で染められたと言われれば、なんだか信じてしまいそうな、怪しい美しさがある。 「ヒロくん、どう? あ、恵子さん。おかえりなさい」  そこへ、石段の掃除を手伝いに、神歩がやってきた。 「おう、ただいま。ちょっと休憩しようか」  恵子は右腕を持ちあげて、紐でくくられた箱をぷらぷらさせた。 「あ、お茶菓子を買ってきてくださったんですか! ありがとうございます。ヒロくん、お茶にしましょう」
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