一話 ぼくが巫女さんに

13/16
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
 それから三人は(神さまを数えるときは、正しくは柱を使う。一人なら一柱といった具合。だが、その数え方をすると恵子が嫌がる)、社務所で三時のお茶をすることになった。  ヒロは、座ってていいと言われたものの、元気がありあまっているようで落ち着かなかったので、お茶をいれるという神歩の手伝いを申し出た。 じいちゃんちで何度も飲んだものの、緑茶をいれるなんて初めてのことだったので、ヒロは好奇心で目を輝かせた。 「こうやってね、沸騰したお湯を一度湯のみにうつすの。こうすることで、お茶がほどよく冷めて、飲みやすくなるのよ。それに分量もはかることができるから、むだがないの」  ひろは、へえぇ、と驚きの声をあげた。  昨日までの自分だったら、こんな反応は決してしなかっただろう。  じいちゃんとばあちゃんに見せるような、無気力な自分だったに違いないのだ。  自分の中でなにかが変わっていくのを、ヒロは嬉しく思った。 「次に、急須にお茶の葉を入れて、湯のみにうつしたお湯を注ぎます」 「うんうん」 「あとは、大体一分ぐらい待って、それから湯のみにお茶をつぐの。簡単でしょ?」 「ふーん。でも神歩さん、こうすれば、もっと早い時間ですむんじゃないかな」  急須を手に持って、中身がこぼれないように揺すってみた。  その手を、上から優しく押さえて、神歩は首をふった。 「そうするとね、お茶の苦みの成分が出てしまうの。だから、お茶の葉が開くまで、ゆっくり待ってあげる必要があるのよ」 「そうなんですか、ごめんなさいっ!」  失敗してしまったと思ったヒロは、すぐにあやまった。 「あら、どうしてあやまるの? ヒロくんは、その方がいいと思ってやってくれたんでしょう。なら、あやまる必要なんてぜんぜんないのよ」  ヒロはその言葉を受けて、体の中に衝撃が走った。  大人はいつだって、悪いことをしたときや、わからせようとするときには、がみがみとうるさいものだ。でも、神歩は違う。  失敗したことすら認めてくれて、さらに優しさで包んでくれるかのような、思いやりであふれているのだ。  なんだかもう、恵子より神歩の方が神さまに相応しいんじゃないかとさえ、本気で思えた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!