一話 ぼくが巫女さんに

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「もう一分たったかしら。ヒロくんも、見ているだけでは退屈でしょうから、急須から湯のみにお茶をついでもらえる?」 「は、はいっ!」  今度こそ、神歩にほめてもらおうと、ヒロは気合を入れた。 (急須にお湯をいれるのでさえ、あれだけの手間がかかったんだ。だったら、湯のみにつぐときも、特別なやり方があるはず)  ひろは、うーんと考えた。そこで、湯のみを揺すると苦いのが出るという言葉を思い出し、ぴんときた。 「それだ!」  そうとわかれば行動あるのみ。  ヒロは急須を手にすると、湯のみに均等に回しいれた。  こうすれば、つぐときに苦いのが出てしまったとしても、ひとつにかたまることはないはずだ。  つぎ終わると、神歩は手を叩いてほころんだ。 「えらいわ、よく気づいたわね。そうすれば、お茶の濃さが均等になるのよ」  神歩の笑顔をうけて、ヒロも得意そうに笑った。 「でね、もっといいこと教えてあげる」  神歩は急須をかたむけて、最後の一滴を、ちょぴんと湯のみに落とした。 「こうしておけば、お茶の葉の香味が残って、二煎、三煎までおいしくいただけるのよ」  その教え方はとてもていねいで、ほめて伸ばすということの代表みたいだ。  ヒロは神歩の笑顔を見ながら、そんなことを思った。
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