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「どうぞ」
ヒロがお茶をくばると、恵子はすぐに口をつけた。
「お、ちょっと苦くてうまいな」
ずずいと音を立てて飲み、にかっと笑った。
どうやら、恵子にお茶を出すときには、少し急須を揺すってからいれるといいらしい。
このことは神歩も知らなかったらしく、ヒロと目があうと、軽く苦笑した。
「さ、ふたりとも、遠慮せず食べてくれ」
恵子が買ってきたお茶菓子のふたをぱかっと開けるなり、神歩は歓声をあげた。
「あっ、赤福だ! 私、これ大好きなんです!」
きめ細やかなあんこが波打つ、とてもやわらかそうなお餅が、いくつも並んでいる。
神歩は、どうやら甘いものには目がないらしく、すっと手を伸ばすと、専用の木べらでお餅をはがして、自分の皿におくと同時に、黒文字(和菓子を食べるときに使う、クスノキで作られたフォークのようなもの)でぷすっとさして、あむっとほおばった。
至福の笑みをうかべている神歩は、はっと気がつくと、口元を押さえて照れくさそうにした。
「私ったら、ごめんなさい! こんなはしたないまねをして。自分のことなんかより、先にふたりにお取りするべきなのに」
「くくっ、別にいいさ。そんだけ眼の色を変えて食ってくれるんなら、遠出した価値があるってもんさ」
恵子は楽しそうに笑い、ずずっとお茶をすすった。
ヒロは、恵子の皿にお餅を取ってあげながら、たずねた。
「恵子さん。これを買うために、わざわざ船で本土に行ったんですか」
「いいや。船なんか使わなくても、ちょっと線を走らせれば、どこにだって行けるさ」
恵子は、ありがとうと言いながら、皿を受け取った。
「線、ですか?」
「ま、気にすんな。神さまだから、いろいろとできんだよ」
にかっと笑い、あむっとお餅をほおばっている。
「うーん、そういうものなんですか」
(誰も使っていなかったこの神社に、水道やガスや電気が通っているのも、そういうものなのかもしれないな)
なんとなく、そう思った。
ふと、神歩と視線があう。
神歩は、すでに四個目に手を出していて、恥ずかしそうに、てへっと笑った。
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