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「ほう! ようきたようきた!」
ごく平凡な一軒家の扉を叩くなり、じいちゃんが飛び出てきた。
まるで、待ち構えていたかのような速さに、ヒロはびくっとした。
「じ、じいちゃん。ひさしぶり……」
ヒロは、大きな声でわめきながら頭をなでてくるじいちゃんに、うろたえながら挨拶をする。
「ほう、ヒロかえ。ようひとりでこれたなぁ」
奥からばあちゃんが出てきた。
母親に無理やり行かされました、とはさすがに言えない。
「夏休み中、ずっとこっちにいるんだろう?」
じいちゃんが歯をみせて笑う。不意に、2080運動(八十歳で二十本以上の歯を残そう、という運動)のことが頭にうかび、へえ、と思った。
「うん、ずっとこっちにいるよ。お母さんは夢奈の世話でこれないけど、よろしくって言ってた。あと、おじさんもよろしくって」
正直なところ、なにをよろしくなのか、ぜんぜんわからなかったけど、とりあえず、言われた通りのことを伝えた。
「そうかそうか。んで、夢奈ちゃんは元気かい?」
そう聞かれて、
「元気だよ。毎日毎日ぴーぴー泣いて、うるさくて仕方ないよ」
と答えた。
それを聞いたじいちゃんとばあちゃんは、顔中のしわをくしゃっとさせて、目を細めて喜んだ。
(まったく、みんなして夢奈夢奈って、妹のことばっかり……)
今頃、母親は夢奈にべったりなんだろうな、そう思うと、なんだか胸がもやもやとした。
「そんなことより、ぼく、お腹すいちゃったよ」
ずっと夢奈のことを考えていたのだろう。じいちゃんとばあちゃんははっとして、ヒロに視線を戻した。
「ああ、ごめんね。そうめんでいいかい?」
ばあちゃんが言う。
またそうめんだ。家では夢奈がぐずりだすと、決まってそうめんだった。
こんなにいそがしくて、ご飯の支度なんてできないわよ、とは母親の言い分。
ふりかけをかけてみたり、みそ汁の残りに入れて食べてみたりと工夫してみたのだが、さすがにあきた。ちなみに、めんつゆと似てるから、コーラで食べてみたけれど、すごくまずかった。
「別にいいよ。そうめんで」
文句を言ったところで、どうせそうめんしかないのだろう。
なにせこの島は、びっくりすることに、じいちゃんとばあちゃんしか住んでいないので、コンビニなんて便利なものはないのだ。
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