一話 ぼくが巫女さんに

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 血管がそうめんになるくらい、たくさん食べさせられたヒロは、Tシャツに半ズボンという格好でごろごろしていた。 「ほれ、玉遊びをするべ。ヒロと遊ぼ思って、特別に用意したんだぞ」  じいちゃんがなにか言っている。見ると、サッカーボールを手に持っていた。  コンビニがないくらいだから、お店なんかも一切ない。この島でそういうのを買うのは簡単じゃないのだ。  それでも、きっと孫が喜ぶだろうと思って、わざわざ買ってくれたのだ。 「ほれ、ヒロ。家にこもってないで、外で遊ぼや」  いつまでも起きあがろうとしないヒロを、じいちゃんはじっと見おろしている。  ヒロは思う。正直なところ、迷惑なのだ。  なにしろ、夏休みである今は夏まっさかり。この暑いのに動きたくなんてないし、ましてや外になんて行きたくない。  でも、そんなことを言って、じいちゃんが悲しそうな顔をするのはもっと面倒だったので、ヒロは仕方なしに腰をあげた。 そこへばあちゃんが、あれまあ、という顔をして部屋に入ってきた。 「じいさんや、お昼の後はテレビを見るって、約束していたじゃないですか」  じいちゃんは、ハゲた頭をぴしゃっと叩いた。 「あいや、そうだった」  それから、すまなそうな顔でヒロの顔をうかがった。  ヒロはじいちゃんとばあちゃんに気を使われている。  それはまあ、そうなのだろう。ヒロは大人しい性格なのだ。  元気がなくて、暗い子どもだっていう自覚はある。それを、周りが心配してくれているのはわかる。  でも、別にそのことで困っているわけじゃないから、そっとしておいてほしいと思う。  妹の夢奈とは違って、もう赤ちゃんじゃないのだから。 「だがなあ、ばあさんや。たった今、ヒロと玉遊びをする約束をしちまったんだがなあ」  じいちゃんは、まだ困ったふうに、ちらちらとヒロの顔を見ている。  それがたまらなく嫌で、ヒロはじいちゃんの手からボールを取りあげた。 「いいよ。ひとりで遊んでくる」  そう言うと、じいちゃんとばあちゃんは、用意していたような笑顔で、にっこりと笑った。 「そうかそうか。気をつけてな」  ヒロは、帽子と水筒を持たされて、家から出された。 (もしかして、ぼくを外へ追い出したかったのかな……)  そう思うことも、そういうふうに考える自分のことも嫌になって、ヒロはかけ出した。
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