一話 ぼくが巫女さんに

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「……で、どうしよう」  いざ外に出てみても、遊びなれていないヒロは、なにをすればいいのかわからなかった。 「どこか、こかげで休んでようかな」  そうも思った。でもそれだと、外に出た意味がなくなってしまう。それに、じいちゃんばあちゃんに――せっかく玉を買ったのに、ヒロは遊ばなかった――と思われるのが嫌だったので、仕方なく、ボールを使って遊ぶことに決めた。  そうなると、ボールを転がせるような平らな地面が必要になる。この島のほとんどが、森や林になっているのだ。なので、ヒロは美島神社へと足をむけた。  さて、神社についてみると、そこは記憶の中にある場所とはだいぶ違っていた。  あちこちにクモの巣がはり、建物の表面には、ほこりやら汚れやらが積み重なっていて、ひどく黒ずんで見える。  美島神社は、今はもう見る影もなくすたれていた。  六年前、神さまがすむ神社として、島の外からも参拝者が多く訪れていたという。  ヒロはまだ五歳で、おぼろげながらもそのことを覚えていた。  それが、人がいないだけで、こんなにまでなってしまうのかと、ヒロは悲しく思った。  島の人がみんな出ていって、忘れられた神社。  夢奈が生まれたことで、ほったらかしにされている自分。  なんだかそのふたつは、ぴったりと重なっているかのように思えた。 (ぼくと、おんなじだ……)  ヒロは泣きそうになってしまった。 「なんだよ。くそっ」  けれど、そんなことで泣くのはなんだか悔しかったから、サッカーボールを思いっきりけっとばした。  勢いよく飛んだ新品のサッカーボールは、困ったことに、神社の木の扉をぶちぬいた。 「うわ、やばいっ!」  と思った瞬間、ガラスが割れるような、鋭い音が辺りにひびいた。 「あー。やっちゃった……」  ヒロは肩をすくめて、体をふるわせた。  どうしようどうしようと、うろたえたのは、ほんの少しの間だけ。  ヒロはこの島にじいちゃんとばあちゃんしか住んでいないことを思い出し、ほっと胸をなでおろした。  しかりつけてくる人なんて、いるはずもないのだ。 「おじゃましまーす」  そうとわかればずるいもので、ヒロは軽い気持ちで、ボールでぶちぬかれた扉から神社の中へと入っていった。
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