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神社の中は、夏だというのにひんやりとしていた。
空気がすんでいる、というのだろうか、なんだか清々しくて気持ちがいい。
「そんなことより、ボールボールっと」
思ったより奥にいってしまったらしく、ボールはなかなか見つからなかった。
探していると、ひらひらした紙が垂れさがった部屋へとたどり着いた。
元は白色だったのだろう。紙垂(お正月にも飾る、特殊な折り方をした白い紙)というひらひらした紙は黄色く変色して、ちぎれかかっている。
「うわっちゃあ……」
部屋の中を見るなり、ヒロは顔をしかめた。
目当てのサッカーボールが見つかった、のだが、大きくて高級そうな鏡が粉々に砕け散っていた。
さっきの音は、この鏡が割れる音だったのだ。運悪く、思いっきりぶつかってしまったらしい。
「でも……誰も見てなんかないよね。それに、これは事故なんだ。ぼくはただ、ボールをけっただけだもんね」
自分勝手な言い訳を並べながらボールをひろい、急いで部屋から出ようとすると、どんっ、となにかにぶつかった。
「こらっ! このいたずら小僧が!」
「てっ!」
怒鳴り声とともに、げんこつを落とされた。
こぶができた頭をさすりながら見あげると、
「まったく、ずいぶんと性根のくさったやつだな。この私を眠りから覚ましただけではあきたらず、そのまま逃げようとするなんてな」
パーマのかかった、ほんのり青い髪をした、ちょっとおばさんっぽい女の人が立っていた。
その格好ときたら、なんだかよくわからなくて、紫色のシャツと、黒の袴を身に着けていた。でも、袴というよりは、おしゃれなお菓子やさんがはいているような、エプロンスカートに似ている。
女の人は、むっと眉をよせると、もう一度げんこつを落とした。
「ぼさっとしてんじゃない! まずは、きちんとあやまったらどうだ」
「――ごめんなさい」
ヒロは、痛いのとわけがわからないのとで、涙をこぼしながら頭をさげた。
「ん、まあいいだろう。おい、神歩(かみほ)、神歩はいるか?」
女の人は満足そうにうなずくと、辺りを見回しながら大きな声を出した。
ヒロは、あまりにその声が大きかったので、またぶたれるんじゃないかと、びくっと体を震わせた。
「ま、せっかくきたんだ。茶でも飲んでけ」
意外にも、頭を優しくなでられたので、顔をあげると、知らない人がもうひとり増えていた。
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