一話 ぼくが巫女さんに

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 誘われるまま、ヒロは社務所(主に、神社の事務をおこなう場所)の中へ通された。  四角い机の上に、湯のみが三つ置かれ、熱そうな湯気を立てている。 「あいにく、お茶菓子はきらしているみたいなの。ごめんなさいね」  そう言ったのは、青色の髪の人が呼んだ女性だ。  白衣と、浅葱色の袴をはいていて、神社の神主のような格好をしている。  長い黒髪には真っ赤なリボンが結わえてあって、顔立ちも上品で美しく、ヒロはどきどきした。 「いえ、そんなの、ぜんぜん平気ですっ」 「なーに赤くなってんだか」  ぼくにげんこつを落とした青色の髪の人はそう口にして、ずずっとお茶をすすった。  ヒロもお茶を飲もうとして、待てよ、と思った。 「ねえ、おばさんたち、だれ?」  この島には、じいちゃんとばあちゃん以外の人は、暮らしてなんかいないはずだ。 「ああ、そういえば自己紹介がまだだったか。私の名は恵子(けいこ)。この神社にまつられている神だ。で、こっちは神歩。まあ、私の付き人みたいなもんだ」  青色の髪の人、恵子は、黒髪の女性を指さした。  神歩は、よろしくね、と言い、ぺこりと頭をさげた。 「で、そういうおまえは誰なんだ」  人さし指という言葉のとおり、恵子の指がヒロにむけられている。 「ぼく? ぼくの名前は美島広夢だけど」 「へえ、美島姓か。となると、この島の人間だな」  恵子の言うように、この島の出身の人は、苗字が美島の人がやたらに多い。  今は島の外に住んでいるので、ちょっと違うような気もしたが、ヒロはこくんとうなずいた。
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