一話 ぼくが巫女さんに

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「あいわかった」  なにがわかったのか、恵子は腕を組み、うんうんとうなずいた。  ヒロはそこで、はっと思った。 「ねえ、神さまってなに? この島の人なんでしょ? ぼくをからかってるんだ。どうしてそんなうそをつくのさ。いて、いてててっ!」 「おまえはまず、目上の人に対する口の聞き方に気をつけろ」  恵子はヒロの口の端をつまんで、うにぃと引っ張っている。 「ご、ごひぇんひゃふぁい」  ヒロは痛みに耐えながら、必死になってあやまった。 「あの、恵子さん。それぐらいで……」  神歩の言葉で、恵子はようやく手をはなした。  やっと開放されたヒロは頬をさすりながら、ふてくされたように口を開いた。 「でもさあ、いきなり神さまだなんて言われても、実感わかないよ――いえ、わきませんよ」  恵子が手をわきわきとさせたので、ヒロは慌てて言い直した。  恵子は、やれやれと言って、言葉を続けた。 「そもそも、おまえが神体を壊すから、こんなに早く顕現しちまったんだぞ」 「しんたい? けんげん? なにそれ」  そんなことも知らないのか、とため息をついている恵子に代わって、神歩が説明を始めた。 「顕現というのは、神さまが人の前に姿をあらわすことよ。広夢くんが、神さまにとって大切なもの、ご神体である鏡を割ってしまったから、私たちは眠りから目覚めてしまったの」 「そうだったんですか。ごめんなさい。ぼくのせいで……」 「あら、いいのよ。子どもが元気なのは、平和な証だもの。きちんとあやまったんだから、恵子さんももう怒ってなんかいないと思うわ」  神歩の優しい言葉に、ヒロは頬を赤くそめて、こくんとうなずいた。 「おまえさ、人を見て態度をころっと変えるのは、どうかと思うぞ」  その様子を見ていた恵子は、ヒロのことをぎろりとにらんだ。 「それにだ。もう怒ってはいないが、許してはいないぞ」 「え、そんな」 「恵子さん……」  恵子の思わぬ発言に、ヒロと神歩は顔を曇らせた。
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