一話 ぼくが巫女さんに

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「それはそうだろう。わざとじゃないとはいえ、おまえのせいで私と神歩は眠りをさまたげられたんだ。それ相応の罰を与えんと、お互い寝覚めが悪いだろ」  恵子は、口の端をあげてにやっと笑った。  別に、罰なんかなくても、ぐっすり眠れるのになぁ。ヒロはそう思ったが、さすがに言わないでおいた。 「それで、恵子さん。この子に、どのような罰を」  心優しい神歩は、困った顔で、恵子に続きをうながした。 「うーん、そうだな」  恵子は腕を組んで周囲を見回すと、うへっと顔をしかめた。 「よく見ると、この神社はひどいことになっているな。宮司はどうした、巫女はいないのか」  そんなことを聞いてくる。 「どっちもいないよ。というより、みんなこの島から出てっちゃって、残っているのはじいちゃんとばあちゃんだけだもん。ぼくだって、夏休みだからきただけだし」 「そうか、そんなことが……」  それっきり、恵子は目を閉じて、考え込んでしまった。  退屈したヒロは、お茶を飲んでみた。少し冷めてはいたが、すっきりとしていて、香りもよく、とてもおいしいお茶だ。 「おまえ、夢奈という名前の、生まれて数ヶ月の妹がいるだろ」  恵子は目を開くなり、突然、そんなことを言った。 「え、いますけど。なんでわかるんですか」 「私は神だからな。今、見てきた」 「は?」  いきなりわけがわからない。いったい、どこでなにを見てきたというのだろう。  すかさず、神歩のフォローが入った。 「神さまっていうのはね。すべての場所、あらゆる時間にいらっしゃる存在なの。だから、知ろうと思えば、どんなことでも知ることができるのよ」  恵子はこっくりとうなずき、続けた。 「神歩の言う通りだ。私はなんでも知ることができる。おまえが周りからヒロって呼ばれていることも知っている。な、ヒロ」  さすが神さま。ずいぶんとむちゃくちゃな能力をお持ちだ。  ヒロがびっくりしていると、恵子は話を続けた。 「で、罰についてなんだが――」  恵子はもったいつけて、ぐいっと前に乗り出した。  いきなり顔が近づいて、ヒロはどきっとした。  恵子の口が、ゆっくりと開かれる。 「おまえ、この神社で働け」  そんな言葉が飛び出てきた。 「わあ、それはいいですね。助かります」  恵子はにやにやと、神歩は上品に笑っている。ただヒロだけが、ぽかんと口を開けていた。
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