一話 ぼくが巫女さんに

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一話 ぼくが巫女さんに

 小学五年生の美島(みしま)広夢(ひろむ)は、ひとりで海の上にいる。  というのも、おじさんの船に乗り、じいちゃんとばあちゃんが暮らす島にむかっているからだ。 「はぁ……」  夏休みが始まったばかりだというのに、ヒロ(広夢のあだ名)の気分は暗かった。  海のむこう、両親がいるであろう方角に目をむけては、ため息ばかりついている。 「赤ちゃんの世話があるからって、家を追い出すんだもんなぁ……」  ヒロはもうひとつため息をつきながら、今朝の母親との会話を頭にうかべた。 「夢奈(ゆめな)の面倒を見るのにいそがしいから、ひとりで田舎のじいちゃんちに行ってきて」  夢奈とは、三ヶ月前に生まれたばかりのヒロの妹だ。 「は? なにそれ。だいいち、ぼくはひとりでなんか行けないよ」 「だいじょうぶ。おじさんに頼んであるから」  そういう問題ではない。  ヒロは生まれてからずっと、ひとりで遠出をしたことがない。  学校の休み時間には、教室でぼーっとしているようなタイプなので、友達と一緒に出かけたこともない。というより、はっきり言って、ただのひとりも、友達がいない。  そんなヒロに、たったひとりで行け、と母親はこう言っている。  鬼か? ヒロは思った。  あれこれと反論してみたものの、まるで相手にされなかった。  お兄ちゃんになったんだから、だいじょうぶ。もう小学五年生になったんだから、だいじょうぶ――。  まただ。なにかというと、すぐに「だいじょうぶ」という言葉が返ってくる。  おもしろくない。母親は生まれたばかりの妹に夢中で、ヒロのことなんか、まるで相手にしてくれないのだ。  少しでも気をひこうと、困らせるようなことを言ったり、いたずらしてみたりした。  たぶん、それがいけなかった。夏休みになってすぐ、じいちゃんちに島流しされたのは。  そうこうしているうちに、じいちゃんちがある美島(みしま)が見えてきた。  ヒロは、もうなん度目になるかわからないため息を、大きくはいた。
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