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もう訳が分からない。てかこれは誘拐?拉致?警察に連絡しなきゃ。携帯は何処?バックもポケットもないのにある訳が――
「こんばんは」
頭上から声がした。ビックっと肩が上がった気がするがそれ何処ではない。視界には床と自分の両手。それから靴先ときれいに差し出された左手。
「大丈夫ですか。立てますか?」
どぎまぎして一言目では分からなかったが温厚な声だった。逃げても船の上だし、どうせなら情報を得よう。そう決め手を取った。
「ありがとうございます」
ゆっくりと視線を上げ、後悔した。彼は黒のパンツに黒のベスト、白いシャツの上のきっちり締めた黒ネクタイ。最後に目部下に被った中折れハット。ジャケットを着ずに腕捲りをしているからラフだが、瞳がギラリと光っていてただ怖かった。
「あ、怖がらないでください。マフィアとかではないので」
口元に弧を描く。自覚があるならそんな服着なきゃいいのにと思いつつ少しホッとする。
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