片腕の行方

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  「私は歯医者が嫌い。痛いから」 「知らない。何を言ったって来訪者は存在の書き換えを乗り越えなきゃいけない」 「私は柔軟体操が嫌い。痛いから」 「知らないと言っただろ。妙に落ち着いていると思ったら急におどおどして、よくわからない奴だな。……あー、お前、もう覚悟した方がいいな」  彼はテーブル越しに右手の甲を私に見せた。そこには蛍光グリーンで49と書かれていた。 「この数字のことも後で教えよう。来訪者は存在が書き換えられると同時に体のどこかにこういう数字が刺青のように現れるんだ。お前、もう顔に浮き出てきているぞ」  慌てて顔に触れるが、どこに浮き出ているかはわからなかった。 「すまないな。本当ならお前を部屋に案内してやりたいんだが、時間が無いようだ。まあ、頑張れ」  彼の話が終わった途端、全身に激痛が走った。特にどこが痛いということはなく、正しく全身。自分の声とは思えない悲鳴が聞こえる。なるほど、確かにこれは寝込んでしまうほどの、感じたことの無いような苦痛だ。存在を書き換えるということの異常性を、この時初めて私は理解した。 「はあ、久々にあんなに話した。後でベッドに運んどいてやるから、安心して寝れ」  意識が飛ぶ瞬間、聞こえたのは、彼のそんな呟きだった。  お言葉に甘えて、私は意識を失った。  
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