◇ イリアスについて

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  〈01〉  私がこの街に来てから初めての朝である。朝食はイリアスの手作りだった。サラダとウィンナー、それに食パン。一人暮らしだった私にとって、人の作った朝食はとても新鮮であり感動的であった。 「イリアス、結婚しよう」  試しにプロポーズしてみると、彼は激しくむせてから私を睨んだ。 「冗談言ってないでさっさと食べろ。今日はこの街を案内してやる」  そう、今日は彼がこの街を案内してくれるのだ。ここに来てからまだ外に出たことがないので、とても楽しみだったりする。そのことを彼に伝えると、彼はため息をついてから、 「まったく、お前が家を出る前に見つけることができてよかったよ」  と言った。 「何か不都合なことでもあったの?」 「いいや。ただ、昔この家に来た来訪者が、俺が気付かないうちに家を出ていったことがあってな。家に帰ってから来訪者が現れたことを聞かされて驚いた覚えがある」 「へえ、逃げようとする人は私だけじゃなかったんだね」 「それがルミナスだ」  今度は私がむせる番だった。 「ん? どうした、大丈夫か?」 「大丈夫、ありがとう」  いきなりその名前が出てきて驚いてしまった。  ルミナス。唇の右側にほくろがある女性。彼の大切な人の名前。 「ルミナスさんはとても行動力のある方だったんだね」 「ああ、こっちが困るくらいにな」  彼はそれ以上何も言わず、朝食を黙々と食べた。私も真似して淡々と食べる。食後、食器は私が洗うことにした。片手ではあるけれど、流し台の側面をうまく使うことによってちゃんと洗うことができた。  二階の、私が寝ていた部屋は好きに使って良いらしい。服もクローゼットの中に入っているのを自由に使って良いそうなので、適当にひっぱり出して着替えた。また、机の引き出しにクリップと銀色の髪留めがあったのでそれで右袖を留めた。靴は今朝イリアスが持ってきてくれたサンダルを履いている。クローゼットの奥にあった不思議な柄のストールを肩に巻いて一階に降りると、玄関でイリアスが待っていた。  右腕を隠すように私の肩に巻かれたストールと右袖を、彼は一瞥してから、 「行こう」  それだけ言って外に出た。追いかけるように、私も駆け足で外へ出た。  
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