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〈03〉
その後、二時間ほど街を見ながらゆっくりと歩いた。どうやらこの街は白銀の塔を中心に展開していったようで、歩いていた大通りも塔を囲むように環状になっていた。イリアスが言うには、同じような環状の通りが外側にあと二本あり、また塔から放射状に六本の通りが広がっているそうだ。その六本のうち、北と南に伸びる道は他よりも大きめで、街の外まで伸びているらしい。
街は最初に見た印象通り、病的なほど白で統一されていた。色のある物といえば花壇の花や所々に植えられている木々、人々の服くらいだ。途中、大きな川に架かる橋を渡ったが、川底に白い小石を敷き詰めるほど徹底していた。
「だいぶ歩いたが、疲れてないか?」
「ううん。まだ平気。この街には車の類はないのね」
「ああ、車とか、そういう複雑な機械類はほとんどないんだ」
現在、イリアスがよく来るというお店で昼食を取っている。カルボナーラがおいしいお店だった。
「お前は日系だから、やっぱり米のほうが口に合うのか?」
私の出自については歩きながら話した。私は日本生まれで、19歳、大学の一年生だった。私の出自を聞いてから、彼は彼のことを教えてくれた。彼は今24歳で、この街に来たのは七年前だそうだ。
「私はご飯よりもパンの方が好きだったから大丈夫だよ」
「この街に来る前もよく食べていたのか?」
「うん。朝ごはんによく食べてたよ。クロワッサンが好きだった」
とても他愛もない話だった。昨日の様子や淡白な態度から他人と話すのを面倒に感じる人かと思っていたが、違っていたようだ。彼も私を知ろうとしてくれているようで嬉しかった。
食後、また街を歩いた。お店を出るとき、お代を払っていない気がしたが大丈夫なのだろうか。店主も何も言わなかったのがさらに不思議だった。
街を歩いている途中、時間がわからないと不便だろうということで彼は時計を買ってくれた。また履くものがサンダルだけだと不便だろうということで靴も買ってくれた。
「ありがとう、イリアス。あなたは優しい人だ」
「お前が俺の家に現れてしまったんだから、最低限の面倒は見ないといけないんだ。この街にある伝統でそう決まっているんだから感謝する必要はない」
彼は照れたようにそう言い、私から顔を背けた。
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