◇ シイナの話

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  「私からのお話はこれでおわり。何か聞きたいこととかある?」 「じゃあ、ちょっとだけ」 「はい、どうぞ」 「一つ目、シイナは何歳?」 「イリアスと同い年よ」  24歳なんだ。もっと近い年齢だと思った。 「もしかして彼の年齢を知ってる?」 「うん」  ひー、と彼女は小さく悲鳴を漏らして、顔を隠した。 「年の割には子供みたいって思ってるんでしょそうなんでしょ!」 「あはは、そんなことないよ」  しばらく悶えた後、恥ずかしそうに微笑みながら、シイナは私に尋ねる。 「一つ目ってことは、聞きたいことはまだあるの?」 「うん。あと二つ」 「なに?」  私は、本当に聞きたかったことを尋ねる。 「『来訪者にとってトラウマというのは、その人の形その物』という言葉の、『その人の形』とは具体的にどういうことか。それと、この数字がゼロになったとき、私たち来訪者はどうなるのか」  土に水がしみ込むように、彼女の微笑みが消える。 「イリアスはあなたを変な奴と言っていたけど、こういうことだったのかな」  彼女の雰囲気が変わった気がする。イメージは、好奇心を宿した無垢な少女から、探究心を宿した事象を観察する研究者。彼女は再び笑みを浮かべて、私の顔をじっと見た。 「サキちゃんはすごく侮れない子だね。その質問には私じゃない人が答えてくれるよ。多分、次に合わせてもらえる男の人とかに」 「私の、この街での関わりを増やす一環で?」 「そう、きっとその人の方が適任だから。うふふ、サキちゃんはすごく面白いね。あなたのトラウマを知りたくなって来ちゃった。この街での暮らしに何か困ったことがあったら、私をお姉ちゃんだと思ってなんでも相談していいよ」  お姉ちゃん。なんだかとても、懐かしい響き。 「うん。ありがとう。今度お花買いに来るね」  話が終わったのを察してか、イリアスがお店から出てきた。 「シイナ、ちゃんと話せたか?」 「うん、すごく緊張したけどね。うふふ、楽しかったよ、サキちゃん」 「うん、私も」  行くぞと言ってイリアスは歩き始めた。シイナが言っていた男の人のところだろうか。 「またね、サキちゃん」 「うん。また」  シイナに軽く手を振って、私たちは広場を後にした。  
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