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〈02〉
中央に得体の知れない塔があるこの街は病的なほど白で統一されていて、色のある物といえば花壇の花や所々に植えられている木々、人々の服くらいだ。誰が作り出したのか一切不明のこの街は塔を中心に広がっていて、端から端まで歩くのに二時間はかかる。そして、この街の外側、街の端からだいたい三時間ほど歩くと、巨大な壁が街を大きく囲むようにそびえ立っている。塔と壁のことをイリアスに聞いたところ、
「あの塔はアンチテーゼの家だ。あまり入る機会がないから中の様子は覚えてない。壁のことは知らない。おそらく住人達も知らないだろう。アンチテーゼにでも聞いてくれ」
とのこと。
私はこの街のことを何も知らない。そもそも私がこの街に来てからまだ五日も経っていない。塔や壁、アンチテーゼのことはイリアスたちが簡単に説明してくれたが、正直なところまだ理解しきれていない。この街、と言うかこの世界はなんなのか、それを考えることが、そしてここでの生活に慣れることが、ここに来てしまった私のすべきことだろう。
そう、私はこの世界に来てしまった。まずはその経緯から思い出そう。初冬のある日、冷めたい雨の降るスクランブル交差点、何か青いひらひらした物を追いかけたらこの街に来ていた。
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